今朝の1杯
朝の1杯は、カップ式の自動販売機から。
職場の福利厚生により、街中の自動販売機よりも少し安い。
助かります。
ビッグ100円、レギュラー90円。
慣れた手つきで、バッグのポケットに手を突っ込み、小銭入れを引っ張り出す。
小銭入れを開いたが、あいにく100円玉は切らしていた。
チッ
心の舌打ちが聞こえてきそうな一瞬ののち、おもむろにバッグの中から財布を取り出す。
千円札が自動販売機に吸い込まれていく。
カラカラとおつりの小銭が取り出し口の中に踊りながら落ちてくる。
出来上がりまで、あと20秒。
10秒。
3
2
1
扉が開く。
中でカフェ・ラテはまだ渦を巻いている。
こぼさないように、階段をあがり、いつもの窓際に陣取る。
いつも先にいるはずの顔なじみが今日はいない。
数日前、突然話しかけられてから、朝のコーヒータイムの友だ。
どこの部署か、名前すら知らない。
外は冬の風まだまだ冷たいが、
この窓際の特等席は、一足早く春が訪れていた。
ちらっと時計に目をやり、まだ時間があることを確かめる。
澄み切った空を見上げながら、湯気の立つカフェ・ラテをすする。
見下ろすと、それぞれの仕事に向かう人たち。
建物に入ってくる人、通り過ぎていく人。
みんな、それぞれの目的地へ足早に歩いていく。
また、時計をちらり。
もうそろそろだな。
ふぅっ
残った疲れを吐き出すように一つ深呼吸。
よしっ。
心の中でつぶやく。
最後のひと口を放り込む。
口の中に広がる苦みに気が引きしまっていく。
カップをダストボックスへ投げ入れる。
カチッと仕事モードのスイッチを入れる。
IDをかざし、ドアをすり抜ける。
おはようございます。
今日も引き返せないところへ来てしまった。
ならば、前へ進もう。
きっと誰かの役に立っているはずだ。